米軍ハウスの生活

米軍基地
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1945年(昭和20年)8日30日、米軍マッカーサーが厚木の飛行場に降り立った。同時に本牧の一部は米軍に接収され、日本人は立ち入る事が出来なくなった。戦後の日本は、食べることすら大変な時代に、フェンス越しに見えるアメリカの世界は、きらびやかで、華やかに映っただろう。また、早くに日本を復興し、後の豊かな生活を夢みて築き上げ、現在の日本の生活環境基盤を作ったように思える。そんな、接収当時の「FENCEの向こうのアメリカ」では、実際にどのような生活が行われていたのか興味を持ち覗いてみたくなった。

ディペンデント・ハウジング

当時の詳細が、『DEPENDENTS HOUSING』(ディペンデント・ハウジング)という資料に残されていることが分かった。

※「ディペンデント・ハウジング(以下、DH)」とは、占領地での将校軍人層の「家族用住宅」を意味する。

・1946年(昭和21年) 1月31日 GHQから、DH2万戸(内、朝鮮4,000戸)の建設・改修が伝えられた。
※2万戸の内、横浜約1,200戸(本牧392戸、山手300戸、山下35戸、座間90戸、長井400戸)
・1946年(昭和21年) 2月10日 GHQから、家具の制作内容が伝えられた。
※最終的に横浜の新築DHは、2,059戸(本牧エリアⅠ=386戸、エリアⅡ=486戸)となった。
・1946年(昭和21年)10月から本牧米軍住宅に入居を開始した。

建築編

米軍住宅のタイプ
「A(中尉以下)」約26~32坪で、2~3つの寝室、平屋または2階建て。
「B(佐官用)」約33~46坪で、2~3つの寝室、平屋または2階建て。
「C(多人数)」約41坪で、4つの寝室、平屋建て。
※30坪で、約99平米となる。

▽A-1:平屋建て、居間+食堂、寝室(2)、バス、トイレ

▽A-1a:二階建て、居間、食堂、寝室(2)、バス、トイレ

▽A-2:平屋建て、居間、食堂、寝室(3)、バス、トイレ

▽A-2a:二階建て、居間+食堂、小部屋、寝室(3)、バス、トイレ(2)

▽B-1:平屋建て、居間、食堂、寝室(2)、バス、トイレ、納戸

▽B-1a:二階建て、居間、食堂、寝室(2)、バス、トイレ、納戸

▽B-2:平屋建て、居間+食堂、寝室(3)、バス、トイレ(2)、納戸

▽B-2a:二階建て、居間、食堂、寝室(3)、バス、トイレ(2)、納戸

▽C-1:平屋建て、居間+食堂、寝室(4)、バス、トイレ(2)

以上の9種類(A-1,A-1a,A-2,A-2a,B-1,B-1a,B-2,B-2a,C)を単体もしくは、つなげて地形や外観、住居性を顧慮して組み合わせています。

▽例1:単純に横に3連(2F建ての、A-1a,A-1a,A-1a)

▽例2:1屋をずらした3連(2F建ての、A-1a,A-1a,A-1a)

▽例3:両サイドをずらした4連(2F建ての、A-1a,A-2a,A-2a,A-1a)

▽例4:両サイドを平屋(縦)にした4連(A-1,A-2a,A-2a,A-1)

生活用品編

家具

長椅子(Sofa)、茶卓子(Tea Table)、肘掛椅子(居間用椅子)(Arm Chair)、脇卓子(End Table)、電話卓子(Telephone Stand)、電話用腰掛(Telephone Stool)、書机(Writing Desk)、書机用椅子(Desk Chair)、本棚(Bookcase)、雑誌入(Magazine Rack)、灰皿(スタンド型)(Ash Tray (Stand type))、食器棚(Side Board)、食堂卓子(Dining Table)、食堂肘付椅子(Dining Chair with arms)、食堂椅子(Dining Chair)、寝臺(一人用・二人用)(Bed (Single,Double))、寝臺脇卓子(Night Table)、衣服箪笥(Chest of Drawers)、化粧卓子(Dressing Table)、化粧用腰掛(Dressing Stool)、幼児用寝臺(Baby Cribs)、幼児用遊戯柵(Play Pen)、アイロン臺(折り畳み式)(Ironing Board)、調理臺(Kitchen Table)、調理用腰掛(Kitchen Stool)、カード卓子(折り畳み式)(Card Table (Folding))、カード用折畳み椅子(Folding Card Chair)

什器

鍋・フライパン、加熱用品

ソース鍋セット(Sauce Pan Set)、フライパン(Frying Pan)、二重鍋(Double Boiler)、シチュー鍋(Sauce Pan Set)、大鍋(Steu Pan)、菓子焼鉄板(Griddle)、菓子焼板(Tin Muffin Pan)、小杓子(Small Ladle)、小汁鍋(Small Sauce Pan)、レンジ用深鍋(Pot)、深鍋(Pot)、天火(Roaster)、パン入箱(Bread Box)、麺棒(Rolling Pin)、菓子焼鍋(Cake Pan)、パイ焼鍋(Pie Pan)、鍋セット(Pan Set)、湯沸 (Tea Kettle)

調理用具・台所用品

チーズおろし(Cheese Grater)、ふるい(Flour Sifter)、芋つぶし(Potato Masher)、野菜おろし(Vegetable Grater)、コーヒー濾し(Tea Strainer)、スープ濾し(Soup Strainer)、調理用ボール(Mixing Bowl)、攪拌器(Whipper)、塩入・砂糖入(Salt Box,Sugar Shaker)、蓋付丼(Covered Vegetable Dish)、調味料容器(Storage Jar)、蓋物(Kitchen Casserole)、冷凍用ガラス容器(Ice dishes)、冷凍用ガラス瓶(Ice Water Bottle)、レモン絞・水差し(Lemon Juicer,Water Pitcher)、計量カップ(Measuring Glass,Measuring Cup)、振出器(Salt and Pepper)、氷かき(Ice Pick)、牛乳栓抜き(Opener)、罐切り(Can Opener)、パン切りナイフ(Bread Knife)、バター箆(Spatula)、蒲萄用ナイフ(Grape Fruit Knife)、果物ナイフ(Fruit Knife)、クレーバー(Cleaver)、フレンチナイフ(French Knife)、肉用フォーク(Meat Fork)、調理セット(Kitchen Set)、刃物セット(Kitchen Knife Set)、皿洗器(Dish Pan)、砥石(Grindstone)、皿掛け(Dish Rack)、刷毛類(Brushes)、水切り(Colander)、屑紙入(Waste-Paper Box)、芥入(Dust Pan)、バケツ(Bucker)、肉挽機(Meat Grinder)、石鹸受(Soap Dish)

食器、ダイニング用品

フロアスタンド(Floor Lamp)、デナーセット(Dinner Set)、ナフキン立(Napkin Ring)、蓋付菓子皿(Cake Plate)、サラダボールセット(Salad Bowl Set)、給仕盆(Serving Tray)、喫茶セット(China Ware Pitchers)、大皿(Platter)、パン皿(Baker)、皿(Plate)、紅茶茶碗(Tea Cup)、クリーマー(Creamer)、肉汁容器(Gravy Boat)、蓋付野菜盛(Casscrole)、砂糖入(Sugar Bowl)、灰皿(Ash Tray)、丸皿(Round Platter)、セロリー皿(Celery Dish)、ジュースコップ類(Juice Glass etc)、氷入(Ice Bowl)、ソース入(Syrup Pitcher)、寝室用水差(Water Carafe)、ブラウンコップ(Blown Glass)、プレスコップ(Pressed Glass)、辛子入(Mastard Jar)、胡椒と塩入(Pepper & Salt Shaker)、薬味瓶(Vineger & Saladoil Cruet)、卓上食器セット(Table Ware Set)、スープスプーン(Soup Spoon)、フォーク(Table Fork)、ナイフ(Table Knife)、アイスクリームスプーン(Ice Cream Spoon)、茶匙(Tea Spoon)、デザートスプーン(Dessert Spoon)、バタースプレッダー(Butter Spreader)、バターナイフ(Butter Knife)、氷挟み(Ice Tongs)、果物ナイフ(Fruit Knife)、菓子用フォーク(Cake Fork)、菓子挟み(Cake Tongs)、給仕用フォーク(Serving Fork)、給仕用スプーン(Serving Spoon)、給仕用ソーススプーン(Sauce Ladle)、サラダフォーク(Salad Fork)、サラダスプーン(Salad Spoon)、砂糖スプーン(Sugar Spoon)

日用品

洋服掛(Hangers)、蠅叩き(Fly Swatter)、ちり取(Dust Pan)、洗濯物籠(Clothes-Hamper)、洗濯板(Wash-Board)、洗濯挟(Clothes-Pins)、雑巾絞器(Mop Wringer)、ペーパーホルダー(Paper Holder)、浴槽(Bath-Tub)、浴室用衡器(Scale)

電気機器

鎖吊蛍光ランプ(Lamp (FR-2022AB))、直付蛍光ランプ(Lamp (FR-2021AB))、パーコレーター(Electric Percolator(電気濾過器))、ドリポレーター(Electric Dripolator(電気濾過器))、電気パン焼器(Electric Toaster)、ワッフル焼器(Waffle Iron)、9KW 電気レンヂ(9KW Electric Range)、9.5KW 電気レンヂ 9.5KW(Electric Range)、ホットプレート(Electric Hot Plate(電気小型レンヂ))、電気湯沸器(Water Healer)、電気冷蔵庫(Refrigerator)、扇風機(Electric Fan)、電気ストーブ(Electric Room Heater)、アイロン(Electric Iron)、真空掃除機(Vacuum Cleaner)、電気洗濯機(Electric Washing Machine)、浴室暖房器(Bath-Room Heater)、ガスレンヂ(Gas Range)、自動ガス湯沸器(Gas Water Heater)、ガスストーブ(Gas Circulator)、石炭レンヂ(Coat Range)、冷蔵庫(Ice Box)

日本との生活の違い

この種類や数に驚いたのは確かですが、こんな短い期間の中、アメリカ軍の指導の元・・・

日本人が全て作って用意したんですよ!凄くないですか?

焼け野原になった日本で、これをきっかけに大量生産方法やインフラ(上下水道、ガス、電気:家電)の技術、団地等の建築技術が飛躍的に向上しました。とは言っても、国民の生活がすぐに向上する訳でもなく、家電(冷蔵庫、洗濯機、掃除機等)も高額で手に入れられるのは、ごく一部の人達だったでしょう。

▽ 『DEPENDENTS HOUSING』の部屋見本図があります。

出典:DEPENDENTS HOUSING

▽戦時中の日本の部屋は、こんな感じです。

出典:江戸東京博物館

比べてみると、一番は座布団と椅子で床に対する文化的な違いが分かります。それと、日本部屋には、ちゃぶ台(丸テーブル)があり台所とは別ですが、アメリカはダイニングキッチンで、作る部屋と食べる部屋は同室です。まあ、そもそも部屋の大きさの問題がありますが寝室(ベット)は、基本的に夫婦と子供は、別室です。日本は、布団で「川の字」が普通でした。トイレなんかもアメリカは、下水道で流し暖房機まであり、室温に対しては重要視してたみたいです。

今の生活を見渡してみると確かに、上のアメリカ軍住宅と同じ感があり、マッカーサーが来てからアメリカンナイズされている日本という話を耳にします。確かに、多大な影響を受けたことは事実でしょうが、私には、違う理由の方が影響が強いと、ずっと思っています。

それは・・・

1960年台からカラーテレビが発売され、東京オリンピックを境に一気にカラー放送が増えました。その頃に放映されていたアメリカのテレビドラマ「奥様は魔女」です。

日本人は、このテレビドラマを見て魔法にかけられたと思います。

▽このドラマに出てくる部屋

先ほどの、部屋見本と比べてみて下さい。同じじゃないですか?

子供ながらアメリカに憧れ、大好きだったドラマです!これが言いたかった・・・

GHQデザインブランチの日本人スタッフと商工省工芸指導所(1948) 『DEPENDENTS HOUSING』 技術資料刊行会

以下の「占領軍住宅の記録」には、『DEPENDENTS HOUSING』の詳細や写真が掲載され、更に解説や図面、GHQの組織・歴史の他、当時の関係者のインタビュー等で構成されており参考にさせて頂きました。『DEPENDENTS HOUSING』は、入手困難で閲覧が難しいと思いますが、「占領軍住宅の記録」は、まだ購入が可能だと思います。当時を知る為には、素晴らしい内容の書籍なので興味がある方は、是非探してみて下さい。

 

コメント

  1. ハマオさん、いつもコメントありがとうございます!アメリカって規模が違って物が大きいじゃないですか?車もですし、ハンバーガーとか食品も、コストコに行くと今でも大きさには、驚いています。それと、ドラマなんてみたら、とにかく笑顔なんですよね~。明るいというか楽しそうというか、辛いことないんじゃないかな?と思ってしまうくらいです。
    今、逆に日本の質素な物や、和食、静かな心とか人気じゃないですか!結局、人間というのは隣の芝生は青く見えるのかも知れませんね。私も根岸の簑沢に住んでいたのですが、そりゃ芝生の緑と家の白と空の青のコンストラストが、今でも目に焼き付いてます。

  2. ハマオ より:

    イイですねェ…米軍ハウス。

    図面や当時の生活用品の数々も興味深いです。

    Youさんが仰るようにアメリカ製TVドラマなどから洋式のライフスタイルへの憧れを抱いた日本人は当時相当数に上ることと思います。

    靴のまま入室するなんてショッキングでしたよね(笑)

    確か`80年代に福生辺り?の米軍ハウスが一般に貸し出され、芸術家の卵達が好んで住み始めたりしていることを雑誌が取りあげていました。

    …で、横浜にもそのような物件はないものかと不動産屋をまわってみたものの、あろうはずもなく根岸ハイツをただ羨望のまなざしで見つめるだけでした。

    いまだ芝生の庭やパステルカラーのサイディングを施した「ハウス」に憧れは尽きませんねェ。

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